SDGs目標8「働きがいも経済成長も」とは?基本を解説

SDGs目標8「働きがいも経済成長も」とは?基本を解説

「働きがいのある仕事」と「経済成長」は、対立するものではなく、むしろ両立すべき目標です。SDGs目標8は、すべての人が人間らしく働ける環境を実現しながら、持続可能な経済の発展を目指す取り組みです。この記事では、その基本的な考え方や課題、私たちにできる行動について、わかりやすく解説します。

目次

SDGs目標8「働きがいも経済成長も」とは?基本を解説

SDGs(持続可能な開発目標)の目標8は「働きがいも経済成長も」というテーマを掲げています。これは、すべての人々にとっての「働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)」と、持続可能な経済成長を両立させることを目指すものです。

この目標は、単に経済を大きくすることだけを目的としているわけではありません。働く一人ひとりが尊重され、公正な環境で能力を発揮できることが、結果として安定的で健全な経済成長につながる、という考え方に基づいています。

中核となる「ディーセント・ワーク」の考え方

目標8を理解する上で最も重要なキーワードが「ディーセント・ワーク」です。これは国際労働機関(ILO)が提唱する概念で、具体的には以下の要素を含む「人間らしく尊厳を持って働ける仕事」を指します。

  • 働く機会があること: すべての人が生産的な仕事に就ける。
  • 公正な収入: 生活を支えるのに十分な賃金が支払われる。
  • 働く上での権利: 職場の安全が守られ、差別などがない。
  • 社会的保護: 年金や医療保険といったセーフティネットが整備されている。
  • 社会との対話: 労働者が自身の意見を表明し、意思決定に参加できる。

つまりディーセント・ワークとは、やりがいや公正な収入だけでなく、働く人の権利や将来の安心までが保障された、質の高い雇用のあり方を示しています。

なぜ「働きがい」と「経済成長」が両立すべきなのか

「働きがい」と「経済成長」は、互いに深く関連しています。

もし経済成長のみを優先し、労働者の権利や安全を軽視すれば、労働者は疲弊し、生産性は長期的に低下します。イノベーションも生まれにくくなり、経済は持続可能性を失ってしまうでしょう。

逆に、すべての人がディーセント・ワークを実現できる社会では、労働者のモチベーションが高まり、生産性が向上します。これにより、企業や産業が発展し、結果として安定的で持続可能な経済成長がもたらされます。

このように、働く人の尊厳を守ることが経済成長の土台となる、という好循環を生み出すことが目標8の核心です。

目標8の具体的なターゲット

SDGs目標8には、達成に向けた具体的な12の「ターゲット(個別目標)」が設定されています。ここでは、特に重要なものをいくつか紹介します。

ターゲット番号概要
8.1各国の状況に応じた経済成長を維持する。特に後発開発途上国は年率7%以上の成長を目指す。
8.3中小企業の成長などを通じ、生産的な雇用とディーセント・ワークを推進する。
8.52030年までに、若者や障害者を含むすべての男女の完全かつ生産的な雇用とディーセント・ワーク、同一労働同一賃金を達成する。
8.62020年までに、就労、就学、職業訓練のいずれも行っていない若者(ニート)の割合を大幅に削減する。
8.7強制労働を根絶し、あらゆる形態の児童労働を2025年までに終わらせる。
8.8移住労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。

世界が直面する労働問題の現状

目標8が目指す理想に対し、世界には依然として深刻な労働問題が存在します。ここでは、代表的な課題を解説します。

児童労働と強制労働

本来であれば教育を受けるべき子どもが、危険な労働に従事させられる「児童労働」は、今なお根絶されていません。ILOとユニセフの2021年の報告によると、世界の5〜17歳の子どものうち約1億6,000万人、およそ10人に1人が児童労働に従事しています。

特に、健康や安全、道徳を損なう恐れのある「有害な児童労働」に従事している子どもは7,900万人にのぼり、農業や鉱業、製造業といった分野で働かされています。

また、暴力や脅迫によって労働を強制される「強制労働」も深刻です。ILOの推計では、2021年時点で約2,760万人が強制労働の状態にあり、その多くが民間企業による搾取の犠牲者となっています。私たちが日常的に利用する製品やサービスのサプライチェーンに、こうした問題が潜んでいる可能性があります。

若者の失業と雇用の不安定化

若年層(15〜24歳)の失業は、世界的に大きな社会問題です。ILOによると、2023年の世界の若者の失業率は13.3%に達し、成人全体の失業率の3倍以上に相当します。

キャリアの初期段階で仕事に就けない経験は、長期的に見て個人のスキル形成や所得に悪影響を及ぼす可能性があります。また、就労、就学、職業訓練のいずれも行っていない「ニート(NEET)」の状態にある若者の増加は、社会の活力を損なう要因ともなります。

経済のグローバル化や技術革新が進む中で、若者が円滑に労働市場へ移行できるような教育・訓練システムの構築が急務です。

機会と処遇における不平等

性別、人種、障害の有無などを理由とした、雇用における機会や処遇の不平等も根深い問題です。

世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2024」では、経済分野における男女格差の解消には152年かかると予測されています。多くの国で、女性は男性よりも賃金が低く、管理職への登用も限定的です。

また、障害のある人々は、能力があっても社会の偏見や物理的な障壁によって、就労機会を奪われがちです。働けたとしても、低い賃金や不安定な雇用形態に置かれることも少なくありません。

どのような属性の人であっても、その能力が公正に評価され、等しい機会が与えられるインクルーシブ(包摂的)な社会の実現が、目標8の重要な柱です。

日本の労働環境における課題

次に、日本の状況に目を向けてみましょう。日本もまた、目標8の観点から多くの課題を抱えています。

長時間労働とワークライフバランス

日本の労働環境における長年の課題として「長時間労働」が挙げられます。働き方改革の推進により労働時間は減少傾向にあるものの、依然として国際的に見て長い水準です。

特に、賃金が支払われないサービス残業や、持ち帰り仕事といった「見えない労働時間」が問題視されるケースもあります。

長時間労働は、働く人の心身の健康を損ない、過労死につながるリスクを高めるだけでなく、家族との時間や自己啓発の機会を奪います。これによりワークライフバランスが崩れると、仕事への意欲や生産性の低下を招きかねません。

労働生産性を向上させ、効率的に働き、十分に休息するという文化への転換が求められています。

正規・非正規雇用の格差

日本の雇用者に占める非正規雇用の割合の高さも、大きな特徴です。総務省統計局の「労働力調査(2024年平均)」によれば、役員を除く雇用者のうち37.0%が非正規の職員・従業員となっています。

非正規雇用は柔軟な働き方を可能にする一方で、正規雇用との間に様々な格差が存在します。

比較項目正規雇用非正規雇用
雇用の安定性比較的安定(無期雇用が中心)不安定な場合が多い(有期雇用が中心)
賃金水準比較的高い、昇給や賞与が期待できる比較的低い、昇給や賞与がない場合も
能力開発研修などの機会が比較的豊富機会が少ない傾向
福利厚生充実している傾向限定的な場合が多い

こうした雇用形態による処遇の違いは、「同一労働同一賃金」の原則に反する可能性があり、働く人の意欲や生活の安定を損なう一因です。雇用形態に関わらず、働きが公正に評価され、誰もが安心してキャリアを形成できる環境の整備が課題です。

ジェンダー・ギャップの現状

男女間の格差(ジェンダー・ギャップ)は、日本が抱える特に深刻な課題の一つです。世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2024」で、日本は146カ国中118位と、先進国の中で著しく低い順位に留まっています。

特に「経済」と「政治」分野での格差が顕著です。経済分野では、管理職に占める女性比率の低さや、男女間の賃金格差が指摘されています。

背景には、出産・育児を機に女性がキャリアを中断せざるを得ない状況や、固定的性別役割分業の意識などが存在します。

性別に関わらず、すべての人がライフイベントとキャリアを両立しながら能力を発揮できる社会を構築することは、人材の多様性を確保し、企業の競争力や経済全体の活力を高める上で不可欠です。

目標8の達成に向けて私たちができること

SDGs目標8の達成は、政府や企業の取り組みだけで実現できるものではありません。私たち一人ひとりの意識と行動が重要になります。

消費者として -「エシカル消費」を意識する

日々の消費活動を通じて、目標8に貢献することができます。これを「エシカル(倫理的)消費」と呼びます。

例えば、開発途上国の生産者の労働環境や生活水準に配慮し、公正な価格で取引されたことを示す「フェアトレード認証」の付いた商品を選ぶことは、具体的なアクションの一つです。コーヒーやチョコレート、コットン製品などで見つけることができます。

その他にも、

  • 児童労働や強制労働の撤廃に取り組む企業の製品を選ぶ。
  • 地元の商店や中小企業を積極的に利用し、地域経済の活性化に貢献する。
  • 社会課題の解決を目指す事業者を、クラウドファンディングなどを通じて支援する。

といった方法があります。「価格」だけでなく、その製品が「どのように作られたか」という背景に関心を持つことが、より良い労働環境を世界に広げる一歩となります。

働く個人として – 自身の働き方を見直す

働く個人としても、できることは多くあります。

まず、自身の労働生産性を意識し、働き方を見直すことが挙げられます。不要な残業を減らし、限られた時間で成果を出す工夫をすることで、自身のワークライフバランスを改善できます。

また、主体的に学習し、スキルアップを図ることも重要です。専門性を高めることは、自身のキャリアの選択肢を広げ、より良い労働条件を得るための力になります。

有給休暇を計画的に取得し、心身をリフレッシュすることも、持続的に働く上で不可欠です。職場で不当な扱いやハラスメントがあれば、専門窓口などに相談し、自身の権利を守る行動をとることも大切です。

企業として – 人を資本と考える経営へ

企業は、目標8の達成において中心的な役割を担います。

最優先で取り組むべきは、労働者の権利を尊重し、安全で健康的な労働環境を整備することです。長時間労働の是正やハラスメントの防止、適正な賃金の支払いは、企業の基本的な社会的責任です。

次に、ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、多様な人材が活躍できる組織をつくることが求められます。性別や国籍、障害の有無などに関わらず、すべての従業員が能力を発揮できるよう、テレワークや時短勤務といった柔軟な働き方の導入も有効です。

従業員の能力開発への投資も欠かせません。「人」をコストではなく、企業の成長を支える最も重要な「資本」と捉え、その育成に力を注ぐことが、企業の持続的な成長と競争力強化につながります。

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まとめ – 質の高い雇用が持続可能な未来の土台となる

SDGs目標8「働きがいも経済成長も」は、すべての人々が人間としての尊厳を保ちながら働ける「ディーセント・ワーク」の実現と、それによって支えられる持続可能な経済成長の両立を目指す、重要な目標です。

世界には児童労働や強制労働、日本では長時間労働やジェンダーギャップといった根深い課題が存在します。これらの解決は容易ではありませんが、私たち一人ひとりの行動が変化のきっかけとなります。

エシカルな消費を心がけ、自身の働き方を見直し、企業が従業員を大切にする経営を実践すること。これらの積み重ねが、誰一人取り残されない、豊かで公正な社会を築く礎となるのです。

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