「ジェンダー平等って、なんだか難しそう…」「女性だけの問題じゃないの?」
最近よく耳にするSDGs。その中でも、目標5に掲げられている「ジェンダー平等を実現しよう」という言葉に、そんな風に感じている方もいるかもしれませんね。
実は、ジェンダー平等は女性のためだけのものではなく、男性も、そして社会に生きるすべての人に関わる、とても大切なテーマなのです。性別によって「こうあるべきだ」と決めつけられたり、チャンスを奪われたりすることのない社会は、誰もが自分らしく、生き生きと暮らせる社会につながります。
この記事では、
- そもそもSDGs目標5の「ジェンダー平等」ってどういう意味?
- 世界や日本の現状はどうなっているの?
- 目標達成のために、私たちは何ができるの?
といった疑問に、一つひとつ丁寧にお答えしていきます。まるでカフェで友達と話すような気持ちで、リラックスして読み進めてみてください。きっと、ジェンダー平等がぐっと身近に感じられるはずです。
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」とは?基本を分かりやすく解説
まずは、SDGs目標5の基本から見ていきましょう。「ジェンダー平等」という言葉の本当の意味や、なぜこの目標が重要視されているのかを知ることで、理解がぐっと深まりますよ。
目標5が目指す「ジェンダー平等」の本当の意味
「ジェンダー平等」と聞くと、「男性と女性を全く同じにすること?」と思うかもしれませんが、少し違います。ここで大切なのが、「ジェンダー」という言葉の意味。生物学的な性別(セックス)とは別に、社会的・文化的に作られた「男らしさ」「女らしさ」や、性別による役割分担の意識のことを「ジェンダー」と呼びます。
例えば、「男の子は泣かない」「女の子は家庭的であるべき」といった考え方は、まさにこのジェンダーによるもの。こうした無意識の思い込みが、個人の選択肢を狭めたり、不利益を生んだりする原因になるのです。
SDGs目標5が目指すのは、こうした社会的に作られた性差による不平等をなくし、誰もが性別に関わらず、平等な権利と機会を得られる社会です。それは、男性、女性だけでなく、性的マイノリティ(LGBTQ+)を含む、すべての人の人権が尊重される社会を意味します。つまり、一人ひとりが持つ個性や能力を、性別という枠にとらわれずに、最大限に発揮できる世界を目指している、というわけです。
なぜSDGsの数ある目標の中で「目標5」が重要視されるの?
SDGsには17の目標がありますが、その中でも目標5のジェンダー平等は、他のすべての目標を達成するための「鍵」ともいえる、非常に重要な位置づけにあります。なぜなら、ジェンダーの問題は、貧困や飢餓、健康、教育、経済成長といった、あらゆる課題と深く結びついているからです。
例えば、貧困(目標1)について考えてみましょう。世界では、女の子だからという理由で学校に通えず、読み書きができない女性がたくさんいます。教育の機会がなければ、良い仕事に就くことも難しく、経済的に自立できません。その結果、貧困から抜け出せないという悪循環が生まれてしまうのです。
また、女性が経済活動に参加すれば、世帯収入が増えるだけでなく、国全体の経済成長(目標8)にもつながります。さらに、女性が意思決定の場に参加することで、保健(目標3)や教育(目標4)など、社会全体の暮らしやすさに関わる政策が、より多角的な視点で進められるようになります。
このように、ジェンダー平等を実現することは、他の目標を達成するための土台作りでもあるのです。だからこそ、SDGs全体の中で、目標5は「横断的な目標」として、特に重要視されていると考えられます。
世界と日本のジェンダーギャップの現状は?具体的なデータで見てみよう
では、ジェンダー平等の現状は、世界や日本でどうなっているのでしょうか。客観的なデータをもとに、その「現在地」を確認してみましょう。少しショッキングな数字も出てくるかもしれませんが、まずは現実を知ることが、次の一歩につながります。
世界の現状:まだまだ根深いジェンダーの課題
世界経済フォーラムが毎年発表している「ジェンダー・ギャップ指数」というものがあります。これは、「経済」「教育」「健康」「政治」の4つの分野で、各国の男女間の格差を数値化したものです。
2023年の報告によると、世界のジェンダー平等の達成度は68.6%。つまり、完全な平等までには、まだ30%以上のギャップが残っている状況です。このペースでは、完全な平等を達成するまでに131年もかかると予測されています。
特に大きな課題が残っているのが、「政治参加」と「経済的機会」の分野です。世界の国会議員に占める女性の割合は、いまだに4分の1程度に過ぎません。また、同じ仕事をしていても、女性の賃金は男性よりも低い傾向が世界的に見られます。
もちろん、良いニュースもあります。「教育」分野では、多くの国で男女間の格差がほぼ解消されました。しかし、地域によっては、今なお女の子が学校に通うことを許されなかったり、紛争や貧困によって教育の機会を奪われたりしている現実があるのも事実です。
日本の現状:先進国の中でも低い順位…その理由は?
さて、私たちの国、日本の状況はどうでしょうか。先ほどの「ジェンダー・ギャップ指数2023」で、日本の総合順位は146カ国中125位。前年の116位からさらに順位を下げ、G7(先進7カ国)の中では、圧倒的な最下位という結果でした。
なぜ、これほどまでに日本の順位は低いのでしょう。分野別に見てみると、その理由がはっきりと分かります。
分野 | 日本の順位(146カ国中) | 達成率 |
---|---|---|
経済 | 123位 | 56.1% |
教育 | 47位 | 99.7% |
健康 | 59位 | 97.3% |
政治 | 138位 | 5.7% |
総合 | 125位 | 64.7% |
この表を見ると、「教育」と「健康」の分野では、世界的に見ても男女間の格差はほとんどないことが分かります。しかし、「経済」と「政治」の分野が、著しく低いスコアになっているのです。
「経済」分野のスコアが低い主な原因は、男女間の賃金格差と、管理職に占める女性の割合の低さです。日本の女性の平均賃金は、男性の約75%にとどまっています。また、企業の課長級以上の管理職に占める女性の割合は、13.2%(2021年)と、諸外国に比べて低い水準のまま。
「政治」分野では、国会議員(衆議院)の女性比率が約10%と、世界平均を大きく下回っています。意思決定の場に女性が少ないことが、日本の評価を大きく引き下げている要因といえそうです。これらの背景には、「女性は家庭を守るべき」といった根強い固定的役割分担意識や、見えない壁(ガラスの天井)が存在していると考えられます。
目標5達成のために定められた9つのターゲット(具体的な目標)
SDGsの目標には、それを達成するための、より具体的な「ターゲット」が設定されています。目標5には、大きく分けて「達成目標」と「実現のための方法」に関する、合計9つのターゲットがあります。少し専門的な内容も含まれますが、一つひとつ見ていくと、ジェンダー平等のために世界が何をしようとしているのかが、よりクリアに見えてきます。
あらゆる差別をなくすためのターゲット(5.1〜5.3)
まずは、女性や女の子に対する差別や暴力をなくすことを目指す、3つのターゲットです。これらは、ジェンダー平等を語る上での大前提となる、基本的な人権に関わる部分といえます。
- 5.1:あらゆる場所におけるすべての女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する。法律や制度の上での差別だけでなく、社会的な慣習の中に残る差別もなくしていこう、という目標です。「女性だから」という理由だけで、特定の職業に就けなかったり、財産を相続できなかったりするような不平等をなくすことを目指します。
- 5.2:人身売買や性的、その他あらゆる形態の搾取など、すべての女性及び女児に対する、公共・私的空間におけるあらゆる形態の暴力を排除する。DV(ドメスティック・バイオレンス)や性暴力、セクシャル・ハラスメント、そして人身売買といった、心身を深く傷つける行為をなくすためのターゲット。家庭内や職場、学校など、あらゆる場所での暴力を許さないという強い意志が示されています。
- 5.3:未成年者の結婚、早期結婚、強制結婚及び女性器切除(FGM)など、あらゆる有害な慣行を撤廃する。本人の意思に反して幼いうちに結婚させられる児童婚や、女性の身体を傷つけるFGM(女性性器切除)といった、特定の地域や文化に残る有害な慣習をなくすことを目指します。これらは、女の子の教育の機会や健康を奪う、深刻な人権侵害です。
社会参加とリーダーシップを促すターゲット(5.4〜5.6)
次に、女性が社会でもっと活躍し、自分の人生を自分で決められるようにするための3つのターゲットを見ていきましょう。
- 5.4:無償の育児・介護や家事労働を公的なサービスや政策、社会保障の促進によって認識し、評価する。また、家庭内における責任を分担する。育児や介護、家事といった、これまで主に女性が無償で担ってきた労働(ケア労働)を、社会全体で価値のあるものとして認め、サポートしていこうという考え方です。男性の家事・育児参加を促し、家庭内の責任を平等に分担することも目指します。
- 5.5:政治、経済、公共の場でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参加とリーダーシップの機会を確保する。国会議員や企業の役員、地域のリーダーなど、社会の重要なことを決める場に、もっと女性が参加できるようにするための目標です。多様な視点が加わることで、より良い社会の実現につながります。
- 5.6:国際的な合意に従い、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)とリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)への普遍的なアクセスを確保する。すべての人が、安全な性生活を送り、いつ何人子どもを産むか産まないかを自分で決められる権利(リプロダクティブ・ライツ)を持つことを目指します。そのために必要な、正しい性の知識や、安全な避妊・出産のサービスを受けられるようにすることが重要です。
平等を実現するための「手段」に関するターゲット(5.a〜5.c)
最後に、ここまでに挙げた目標をどうやって実現していくのか、具体的な「手段」について定めた3つのターゲットを紹介します。
- 5.a:各国の法律に従い、女性に対し、土地や財産などの経済的資源に対する平等な権利を与えるための改革を行う。女性が自分の名義で土地を所有したり、銀行から融資を受けたり、遺産を相続したりできるように、法律や制度を整えていこうという目標です。経済的な自立は、女性の地位向上に不可欠な要素です。
- 5.b:女性の能力強化(エンパワーメント)のため、ICT(情報通信技術)をはじめとする技術の利用を促進する。スマートフォンやインターネットといったICT技術を活用して、女性が情報や教育、仕事の機会にアクセスしやすくなるように支援します。例えば、オンラインで起業したり、遠隔で専門知識を学んだりすることが可能になります。
- 5.c:ジェンダー平等の促進と、すべての女性・女児の能力強化(エンパワーメント)のための適正な政策や法律を採択・強化し、その実施を確保する。ジェンダー平等を達成するために、国としてしっかりとした政策や法律を作り、それを確実に実行していくための仕組みを整えることを目指す、総仕上げのようなターゲットです。
ジェンダー平等のために、私たちにできること|個人・企業の取り組み事例
「ジェンダー平等の大切さは分かったけれど、自分に何ができるんだろう?」そう感じた方も多いかもしれません。実は、特別なことでなくても、日々の暮らしの中や仕事の中でできることはたくさんあります。ここでは、個人でできることと、企業の取り組み事例をご紹介します。
日常生活で意識したい、個人のアクション
ジェンダー平等は、私たち一人ひとりの意識や行動から始まります。まずは、身の回りのできることから始めてみませんか。
- 「無意識の思い込み」に気づく「男だから力仕事が得意だろう」「女の子だから細かい作業が好きだろう」「お茶くみは女性の仕事」といった考えは、「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」かもしれません。まずは「もしかして、これも思い込みかも?」と自分の心に問いかけてみることが第一歩です。
- ジェンダーを決めつける言葉遣いをやめる「男の子なんだから泣かないの!」「女の子らしくしなさい」といった言葉は、子どもの可能性を狭めてしまうことがあります。その子の個性として、ありのままを受け止める言葉を選んでみましょう。また、「夫」「妻」の代わりに「パートナー」、「彼氏」「彼女」の代わりに「大切な人」といった言葉を使うことも、多様な関係性を尊重する一つの方法です。
- 家事や育児を「手伝う」から「分担する」へ特に男性の方に意識してほしいのが、家事や育児への関わり方です。「手伝う」という意識は、どこかに「本来は相手の仕事」という考えが隠れているかもしれません。家事も育児も、家庭を構成するメンバー全員の「自分ごと」。パートナーと話し合い、お互いが納得できる形で責任を「分担」することが大切です。
- ジェンダーに関する情報に関心を持つジェンダーギャップ指数や、選択的夫婦別姓、育児休業のニュースなど、関連する情報に少しだけアンテナを張ってみましょう。知識が増えることで、社会の課題をより深く理解でき、自分の意見を持つことにつながります。
企業の取り組み事例から学ぶヒント
個人の意識改革と同時に、社会の仕組みを変えていく企業の役割も非常に大きいもの。ここでは、日本企業の先進的な取り組み事例をいくつかご紹介します。こうした動きが、社会全体のスタンダードになっていくことが期待されます。
- 事例1:女性リーダーの育成と登用(株式会社資生堂)資生堂は、2030年までに女性管理職比率を50%にするという高い目標を掲げています。そのために、次世代の女性リーダーを育成するプログラム「NEXT LEADERSHIP SESSION for WOMEN」を実施。社内外のロールモデルとの対話や、経営課題への提言などを通じて、リーダーとしての視野とスキルを磨く機会を提供しています。こうした積極的な育成と登用が、組織の多様性と競争力を高めています。
- 事例2:男性育休100%宣言(積水ハウス株式会社)積水ハウスは、男性社員が1カ月以上の育児休業を完全に取得することを目指す「イクメン休業」制度を推進しています。当初は取得にためらいもあったそうですが、トップの強いコミットメントと、取得事例の共有、取得しやすい職場風土の醸成により、現在ではほぼ100%の取得率を達成。男性が当たり前に育児に参加する文化を社内に根付かせた好事例といえるでしょう。
- 事例3:DEI(多様性・公平性・包括性)の推進多くの先進企業が、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)の考え方を経営の根幹に据えています。これは、性別だけでなく、国籍、年齢、障がいの有無など、多様な背景を持つ人材が、誰もが公平に扱われ、組織の一員として尊重される環境を目指すものです。例えば、誰でも利用できる多目的トイレの設置や、同性パートナーシップ制度の導入、採用活動におけるバイアスの排除など、具体的な取り組みが進められています。
まとめ:ジェンダー平等は、みんなが「自分らしく」生きるためのカギ
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」。ここまで読み進めてみて、いかがでしたか?
ジェンダー平等は、決して女性だけを優遇するためのものではありません。男性を「こうあるべき」という呪縛から解き放ち、誰もが性別という枠にとらわれず、自分の個性や能力を自由に発揮できる社会を目指す、すべての人にとっての目標です。
世界や日本の現状には、まだまだたくさんの課題があります。特に、意思決定の場への女性の参加や、経済的な格差の解消は、急いで取り組むべきテーマです。
でも、悲観することはありません。私たち一人ひとりが、日常生活の中で「それって、思い込みかも?」と立ち止まってみること。家庭や職場で、対等なパートナーシップを築こうと努力すること。そして、ジェンダー平等の実現に向けて力強く歩みを進めている企業や人々を応援すること。
そんな小さなアクションの積み重ねが、やがて社会を動かす大きな力になります。
この記事が、あなたがジェンダー平等について考え、行動するきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。みんなが「自分らしく」輝ける未来を、一緒につくっていきましょう。
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