「SDGs(エスディージーズ)」という言葉、最近よく耳にしますよね。カラフルな17色の目標がアイコンになっている、アレです。
「持続可能な開発目標」と訳されるSDGsですが、「なんだか壮大で、自分とは関係ない世界の話かも…」と感じていませんか?
実は、SDGsは私たちの暮らしと深く関わっています。中でも今回は、私たちの生活に絶対に欠かせない「水とトイレ」に関するSDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」について、どこよりも分かりやすく、そして心を込めて解説していきます。
日本では、蛇口をひねれば当たり前にきれいな水が出て、いつでも清潔なトイレが使えます。しかし、その「当たり前」は、世界では決して当たり前ではありません。この記事を読み終える頃には、目標6がなぜ重要なのか、世界のリアルな現状、そして明日から私たちができるアクションまで、きっと深くご理解いただけるはずです。
SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」の基本をわかりやすく解説
まずは基本の「き」から見ていきましょう。SDGs目標6が、具体的に何を目指しているのかを、専門用語をかみ砕きながらご説明しますね。
目標6が目指す「すべての人々」のための水と衛生
SDGs目標6の正式なテーマは、「すべての人々の、水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」というものです。なんだか少し難しい言葉が並んでいますね。
ポイントは3つあります。
- 安全な水とトイレが「使える」こと(利用可能性)
- 将来にわたってずっと使い続けられること(持続可能な管理)
- それを「すべての人々」に届けること
つまり、ただ単に井戸を掘って終わり、トイレを建てて終わり、ではありません。誰もが安心して飲める水を手に入れ、プライバシーが守られた衛生的なトイレを使えるようにすること。そして、その仕組みが未来の世代まで続くように、水資源や環境をしっかり管理していくこと。これが目標6の大きなゴールです。
SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」という大切な約束が、この目標6にもしっかりと反映されているのが分かります。年齢や性別、障害の有無、住んでいる場所などに関わらず、誰もが等しく水と衛生の恩恵を受けられる世界を目指しているのです。
具体的な目標「ターゲット」で見るゴール
SDGsの各目標には、より具体的な行動計画として「ターゲット」というものが設定されています。目標6には、全部で8つのターゲットがあるのですが、ここでは特に重要なものをいくつかピックアップしてご紹介します。
- 6.1 安全で安価な飲料水の確保 2030年までに、すべての人が、安全な水を、しかも無理のない価格で手に入れられるようにすることを目指します。
- 6.2 安全なトイレの確保と屋外排泄の根絶 すべての人が、衛生的で安全なトイレを使えるようにします。特に、屋外で用を足さなければならない状況をなくすこと、そして女性や女の子、弱い立場にいる人々のニーズに注意を払うことを目指します。
- 6.3 水質改善と排水管理 川や湖などの水質汚染を減らし、未処理のまま流される排水の割合を半分に減らします。そして、安全な水の再利用を世界的に増やすことを目指します。
- 6.4 水利用の効率化と水不足への対処 限りある水資源を効率よく使えるようにし、水不足に悩む人々の数を大幅に減らすことを目指します。「水ストレス(水不足の度合いを示す言葉)」という問題に取り組むのも、このターゲットの一つです。
このように、SDGs目標6は「水を飲む」「トイレに行く」という基本的なことから、水質汚染や水不足といった、より大きな問題の解決までを目指している、非常に幅広く、そして重要な目標なのです。
驚くべき世界の現状|安全な水とトイレが使えない人々
日本の便利な暮らしに慣れていると、なかなか想像しにくいかもしれません。しかし、世界では今この瞬間も、安全な水とトイレが使えないことで、多くの人々が苦しんでいます。ここでは、目をそむけたくなるような、でも知っておかなければならない世界のリアルな数字と現状を見ていきましょう。
蛇口から飲める水は当たり前じゃない?世界の水事情
日本では、水道の蛇口をひねれば、そのまま飲める水が出てきます。これは世界的に見ても、実はとても恵まれたこと。ユニセフとWHOの最新の報告によると、世界では驚くべき数の人々が水の問題に直面しています。
- 22億人:安全に管理された飲み水を使えていない人々の数です。これは、世界の人口のおよそ4人に1人以上にあたります。
- 7億7100万人:基本的な飲み水さえ手に入らない人々。彼らの多くは、保護されていない井戸や、汚染された川や湖の水に頼らざるを得ません。
汚れた水を飲むことは、コレラや赤痢といった命に関わる病気の直接的な原因となります。特に抵抗力の弱い5歳未満の子どもたちは、汚れた水が原因の下痢で、毎日数百人もの命が失われているのです。
さらに、問題は健康だけではありません。多くの地域、特にアフリカの農村部などでは、水汲みは主に女性や子どもたちの仕事とされています。毎日何時間もかけて、重い水がめを運び、危険な道のりを往復する。その時間が、子どもたちから学校で学ぶ機会を、女性たちから仕事に就いたり社会で活躍したりするチャンスを奪っているのです。
「トイレがない」が引き起こす深刻な問題
水の問題と密接に関わっているのが、トイレの問題です。こちらも、日本では考えられないような厳しい現実に多くの人々が置かれています。
- 35億人:安全に管理されたトイレ(衛生施設)を使えていない人々の数。世界の人口の半分近くにものぼります。
- 4億1900万人:今なお、屋外(草むら、川辺、線路脇など)で排泄を行っている人々。
トイレがない、ということは、ただ不便なだけではありません。排泄物が適切に処理されないため、細菌やウイルスが飲み水や食べ物を汚染し、感染症が蔓延する大きな原因となります。
そして、屋外での排泄は、人々の尊厳を深く傷つけます。特に女性や女の子にとっては、深刻な安全上のリスクを伴います。人の目を避けて用を足すために、夜間や早朝に一人で家の外へ行かなければならず、性的暴行やハラスメントの標的になる危険性が高まるのです。また、学校に男女別の安全なトイレがないことが原因で、生理が始まった女の子が学校に通えなくなってしまうケースも後を絶ちません。
この現実を知ると、私たちが毎日何気なく使っている水やトイレが、いかに尊いものであるかを痛感させられます。
「日本の当たり前」 vs 「世界の厳しい現実」
項目 | 日本の私たちの日常 | 世界の厳しい現実 |
---|---|---|
飲料水 | 蛇口をひねれば安全な水がいつでも飲める。 | 22億人が安全な水を使えない。毎日何時間もかけて遠くまで水汲みに行く子どもや女性がいる。 |
トイレ | 清潔で安全な水洗トイレが家や公共の場にある。 | 35億人が安全なトイレを使えない。4億人以上が屋外で排泄し、感染症のリスクや女性への危険が伴う。 |
衛生習慣 | 石鹸を使った手洗いが当たり前。 | 水や石鹸が貴重で、十分に手洗いができない地域がある。 |
なぜ解決しない?水とトイレ問題の根深い原因
「どうしてこれほど多くの人が、いまだに水やトイレで苦しんでいるの?」そう疑問に思う方も多いでしょう。その背景には、一つだけではない、複雑に絡み合った原因が存在します。ここでは、その根深い原因を3つの側面から探っていきましょう。
人口増加と都市化がもたらす水不足
世界の人口は増え続けており、それに伴って水の使用量も増加の一途をたどっています。一人ひとりが使う水の量が増えているだけでなく、食料を生産するためにも、工業製品を作るためにも、大量の水が必要です。地球上に存在する水の量は限られているため、人口が増えれば、一人当たりが使える水の量は当然減ってしまいます。
また、仕事を求めて人々が都市部に集中する「都市化」も、水問題に拍車をかけています。特に開発途上国では、急激な人口流入に水道や下水といったインフラの整備が全く追いついていません。その結果、スラムなどの密集した地域では、安全な水を確保することが非常に困難になり、衛生環境も悪化の一途をたどるのです。整備されていない場所では、ゴミや生活排水がそのまま川に流され、貴重な水源を汚染してしまうという悪循環も生まれています。
気候変動が水問題に与える深刻な影響
地球温暖化に代表される気候変動も、水と衛生の問題に深刻な影を落としています。これまで安定して雨が降っていた地域で、深刻な干ばつが何年も続いたり、逆に、これまで経験したことのないような大規模な洪水が頻発したりするようになりました。
干ばつが起これば、川や井戸は枯れ、飲み水はもちろん、農業用水も不足し、食料危機に直結します。人々はさらに遠くまで水を求めて歩かなければならなくなり、生活はますます困窮していくでしょう。
一方で、大雨や洪水は、貴重な給水施設やトイレを破壊してしまいます。さらに、汚水が溢れ出して井戸や貯水池に流れ込み、広範囲にわたる水質汚染と感染症の拡大を引き起こすこともあるのです。このように、気候の「極端化」が、人々の命の綱である水へのアクセスを、より不安定で危険なものに変えてしまっています。
紛争や経済格差がインフラ整備を妨げる
悲しいことに、紛争や内戦も水問題を深刻化させる大きな要因です。戦闘によって給水ポンプ場や浄水場、下水処理施設が意図的に破壊されることがあります。これは、人々の生活基盤を奪い、衛生状態を悪化させることで、敵対勢力を弱体化させるという非人道的な戦術として使われることさえあるのです。また、紛争から逃れるために多くの人々が避難民キャンプでの生活を余儀なくされますが、そこでは安全な水とトイレの確保が非常に難しく、コレラなどの感染症が爆発的に流行するリスクが常にあります。
さらに、国内の経済格差も大きな障壁です。政府にインフラを整備するだけの資金がなかったり、汚職などによって予算が適切に使われなかったりするケースは少なくありません。貧困層が多く住む地域は、政治的な発言力も弱いため、インフラ整備の優先順位が後回しにされがちです。このように、水と衛生の問題は、単なる技術の問題ではなく、貧困や格差、平和といった社会的な課題と深く結びついているのです。
目標達成に向けた世界の取り組みと日本の役割
これほど困難な課題に対して、世界は手をこまねいているわけではありません。目標6の達成に向けて、国際機関やNGO、そして日本も様々な取り組みを進めています。ここでは、その具体的な活動内容と、日本の技術力がどのように貢献できるのかを見ていきましょう。
国際機関やNGOによる支援活動の具体例
世界では、国連児童基金(ユニセフ)や世界銀行といった国際機関が中心となり、各国政府と協力しながら大規模な支援プロジェクトを実施しています。例えば、安全な水を手に入れられるように井戸や給水設備を建設したり、学校に男女別の清潔なトイレを設置したりする活動です。
しかし、ただ施設を作るだけでは、持続的な解決にはなりません。修理する技術や部品がなければ、井戸は壊れたまま放置されてしまうからです。そこで重要になるのが、現地の住民自身が井戸やトイレを維持管理していけるように、技術指導を行ったり、衛生に関する正しい知識(石鹸を使った手洗いの重要性など)を伝えたりする「ソフト面」の支援です。
WaterAid(ウォーターエイド)のような、水と衛生問題に特化した国際NGOも、世界各地で草の根の活動を展開しています。彼らは、現地のコミュニティの声に耳を傾け、その土地の文化や習慣に合った、最も適切な解決策を一緒に考え、実行していきます。住民が主体的に参加することで、支援が終わった後も、自分たちの力で水と衛生環境を守り続けていけるようになるのです。
日本の技術力が貢献できること
実は、水と衛生の分野は、日本が世界に誇る技術力やノウハウを発揮できる得意分野の一つです。日本の水インフラは世界最高水準であり、その技術は世界の水問題解決に大きく貢献できると期待されています。
例えば、少ないエネルギーで汚水をきれいにできる高度な「水処理膜技術」や、パイプラインからの水漏れ(漏水)を発見し修繕する「漏水防止技術」などです。開発途上国では、水道管の老朽化によって、浄水場から送られた水の30〜40%が家庭に届く前に失われているケースも珍しくありません。日本の技術は、こうした無駄をなくし、限りある水資源を有効に活用するために役立ちます。
また、政府開発援助(ODA)を担うJICA(国際協力機構)は、長年にわたり世界各国で専門家を派遣し、現地の技術者を育成したり、水インフラの整備計画を支援したりしてきました。日本の自治体が持つ水道事業の運営ノウハウを伝えるプロジェクトもあります。このように、日本の技術や経験を「おすそ分け」することで、世界中の人々が安全な水とトイレを使える未来に貢献しているのです。
私たちの日常から始めるSDGs目標6への貢献
「世界の水問題は壮大すぎて、自分にできることなんてないかも…」と感じてしまったかもしれません。でも、そんなことはありません。私たちの毎日の暮らしの中にも、世界とつながるアクションのヒントがたくさん隠されています。最後に、私たち一人ひとりが今日から始められることをご紹介します。
まずは「知る」こと、そして「伝える」ことの重要性
何よりも大切な第一歩は、「知る」ことです。今、この記事を読んでくださっている、まさにその行為が、目標6への貢献の始まりです。世界の水とトイレの現状がどうなっているのか、なぜそのような問題が起きているのか。まずは関心を持つことが、すべての変化のスタートラインになります。
そして、知ったことを、ぜひあなたの周りの大切な人に「伝えて」みてください。「今日こんな記事を読んだんだけど、世界にはトイレがなくて困っている人がたくさんいるんだって」と、家族や友人に話してみる。あるいは、SNSでこの記事や関連する情報をシェアしてみる。
あなた一人の声は小さいかもしれません。でも、その声が集まれば、社会全体の関心を高める大きな力になります。多くの人がこの問題を知り、声を上げるようになれば、政府や企業の行動を後押しすることにもつながっていくのです。まずは、この問題を「自分ごと」として捉えることから始めてみませんか。
毎日の生活でできるアクション|節水から始めよう
日本に住む私たちが直接、海外に井戸を掘りに行くことは難しいかもしれません。でも、日々の暮らしの中で「水を大切に使う」こと、つまり「節水」を心がけることは、誰にでもできる具体的なアクションです。
- 歯磨きや食器洗いの間、水を流しっぱなしにしない
- シャワーの時間を1分短くする
- お風呂の残り湯を洗濯や掃除、水やりに使う
- 節水タイプのシャワーヘッドやトイレを選ぶ
「でも、日本は水が豊かな国なのに、節水して意味があるの?」と思うかもしれませんね。しかし、私たちが使った水をきれいにする「下水処理」には、たくさんの電気エネルギーが使われています。節水をすることは、そのエネルギー消費を抑え、ひいては地球温暖化の原因となるCO2の排出量を削減することにつながります。気候変動が世界の水問題に深刻な影響を与えていることは、すでにお話しした通りです。私たちのささやかな節水行動が、巡り巡って、水不足に苦しむ人々を助けることになるのです。
「選ぶ」ことで企業を応援|フェアトレードや支援団体への寄付
消費者である私たちには、「選ぶ」という力があります。買い物をするときに、商品の背景にあるストーリーを少しだけ想像してみる。例えば、生産過程で水を大量に汚染したり、現地の水資源を不当に奪ったりしていないか。環境や人権に配慮したものづくりをしている企業の製品を意識して選ぶ「エシカル消費(倫理的な消費)」も、立派な貢献活動です。
また、より直接的な支援として、この問題に取り組む信頼できるNGOやNPOに寄付をするという方法もあります。「寄付」と聞くとハードルが高く感じるかもしれませんが、最近では月々数百円から参加できるプログラムもたくさんあります。自分が寄付したお金が、遠い国の誰かのための清潔な井戸や安全なトイレに変わる。そう考えると、とても素敵なことだと思いませんか?自分のライフスタイルに合った、無理のない範囲でできる応援の形を探してみるのも良いでしょう。
まとめ|私たちの選択が、世界の誰かの「当たり前」をつくる
今回は、SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」について、その内容から世界の現状、原因、そして私たちにできることまで、じっくりと掘り下げてきました。
蛇口をひねれば当たり前に出てくる水も、安心して使える清潔なトイレも、決してタダでそこにあるわけではなく、多くの人の努力と貴重な資源によって支えられている、ということを感じていただけたでしょうか。
そして、SDGs目標6の達成は、単に水と衛生の問題を解決するだけにとどまりません。安全な水とトイレは、人々の健康を守り(目標3)、子どもたちが学校に通い続けることを可能にし(目標4)、女性が社会で活躍する機会を増やし(目標5)、ひいては貧困をなくす(目標1)ことにもつながる、まさに「すべての目標の土台」とも言える重要な鍵なのです。
この記事を読んで、「何か始めてみよう」と思ってくださったなら、これほど嬉しいことはありません。
まずは、今日からできる節水を一つ試してみる。世界の水問題に関するニュースを少し気にしてみる。そんな小さな一歩で大丈夫です。
私たち一人ひとりの選択と行動が、世界のどこかで水に困っている誰かの「当たり前」をつくる力になる。そう信じて、一緒にアクションを起こしていきましょう。
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