「今日の夜ご飯、何にしようかな?」
スマホでレシピを検索し、明るいキッチンで料理をする。夜はリビングのソファでくつろぎながら、テレビドラマの続きを楽しむ…。
私たちにとって、電気やガスのある生活は「当たり前」ですよね。でも、もし今日からそのエネルギーが使えなくなるとしたら、どうでしょうか?
実は、世界にはその「当たり前」が手に入らない人々がたくさんいます。そして、私たちが今使っているエネルギーの多くは、地球環境に大きな負担をかけているという課題も抱えています。
この、誰もがエネルギーを使える未来と、地球にやさしいエネルギー社会を両立させるために掲げられたのが、SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」です。
この記事では、
- SDGs目標7って、具体的にどんな目標なの?
- 世界のエネルギー問題の現状はどうなっているの?
- 私たちにできることって本当にあるの?
といった疑問に、とことん分かりやすくお答えしていきます。「なんだか難しそう…」と感じている方も、読み終わる頃にはきっと、エネルギー問題がぐっと身近に感じられるはず。ぜひ最後までお付き合いください。
SDGs目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」の基本をわかりやすく解説
まずは、SDGs目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」が、具体的に何を目指しているのか、その基本から見ていきましょう。
この目標は、大きく分けて3つの具体的な約束事(ターゲット)で構成されています。専門用語を少しだけかみ砕いて、ご紹介しますね。
目標7が掲げる3つの約束事(ターゲット)
- ターゲット7.1:いつでも使える、安心なエネルギーをみんなが手に入れられるようにするこれは、世界中の誰もが、安価で信頼できる現代的なエネルギーサービスを利用できるようにしよう、という目標です。ここで言う「現代的なエネルギー」とは、単に電気が使えるだけでなく、調理などで煙による健康被害の少ない、クリーンな燃料を使えることも含んでいます。スイッチひとつで明かりがつき、安全なコンロで料理ができる。そんな環境を世界中に広げることが、まず第一の約束事です。
- ターゲット7.2:クリーンな「再生可能エネルギー」の割合を世界中で増やす次に、私たちが使うエネルギーの源に注目した目標です。石油や石炭といった、使うと地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)をたくさん出してしまう「化石燃料」への依存を減らし、太陽光や風力といった自然の力を利用した「再生可能エネルギー」の割合を大幅に増やそう、と約束しています。地球環境を守りながらエネルギーを使い続けるための、とても大切な取り組みです。
- ターゲット7.3:世界全体の「省エネ」のペースを今の2倍にする最後の約束事は、「エネルギー効率」の改善、つまり「省エネ」に関するものです。同じことをするなら、より少ないエネルギーで実現できた方が良いですよね。例えば、昔の白熱電球をLEDに変えるだけで、同じ明るさでも使う電気の量をぐっと減らせます。こうした技術の進歩や工夫を、世界全体で今の2倍のペースで進めていこう、というのがこの目標です。新しいエネルギーを作るだけでなく、今あるエネルギーを賢く大切に使うことも、同じくらい重要だと考えられています。
このように、SDGs目標7は「すべての人へエネルギーを届けること(みんなに)」と、「そのエネルギーを地球にやさしいものにすること(クリーンに)」を、同時に達成しようと目指しているのです。どちらか一方だけでは、本当の意味での持続可能な社会は実現できない、という考えが根底にあります。
世界と日本のエネルギー問題の現状|なぜ目標7が必要なの?
「エネルギーをみんなに」と聞いても、日本では当たり前に電気が使えるため、あまりピンとこないかもしれません。しかし、世界に目を向けると、その「当たり前」がいかに恵まれているかが分かります。そして、足元である日本のエネルギー事情にも、実は大きな課題が潜んでいます。
世界では、今も続く「エネルギーのない暮らし」
国際エネルギー機関(IEA)などの報告によると、2022年時点で世界には約6億8,500万人もの人々が、電気のない生活を送っているとされています。これは、日本の人口の5倍以上もの人々が、夜になっても明かりを灯せず、スマホの充電も、冷蔵庫で食べ物を保存することもできない環境で暮らしていることを意味します。
さらに深刻なのが、調理用の燃料の問題です。薪や木炭、動物のフンといった昔ながらの燃料を室内で使うことで発生する有害な煙によって、世界で約21億人が健康を脅かされています。その多くは女性や子どもたちで、煙を吸い込むことによる呼吸器系の病気は、命に関わる大きな問題です。
エネルギーへのアクセスがないことは、教育や経済活動の機会も奪います。夜に勉強ができなかったり、エネルギーを使う仕事に就けなかったりすることで、貧困から抜け出すのが一層難しくなってしまうのです。すべての人々が人間らしい豊かな生活を送るために、エネルギーへのアクセスは不可欠な土台と言えます。
エネルギー資源に乏しい日本の現実
一方、私たちの暮らす日本はどうでしょうか。いつでも好きなだけエネルギーを使える便利な生活の裏側で、大きな課題を抱えています。それは、エネルギー自給率の低さです。
2022年度の日本のエネルギー自給率は、わずか12.6%。生活や経済活動に必要なエネルギーのほとんどを、海外からの輸入に頼っているのが現状です。特に、発電の燃料となる石油や石炭、液化天然ガス(LNG)といった化石燃料は、そのほぼ全量を輸入に依存しています。
これは、国際情勢が不安定になったり、資源価格が高騰したりすると、私たちの生活が直接的な影響を受けてしまう、非常に脆弱な状態だと言えます。電気代の値上がりは、まさにその一例ですよね。
さらに、化石燃料に頼った発電は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を大量に排出します。安定したエネルギー供給と、地球環境への責任。この2つの大きな課題を解決するためにも、エネルギーの使い方を見直し、再生可能エネルギーの導入を進めていくことが、日本にとって急務となっているのです。
参考:2023−日本が抱えているエネルギー問題(前編)(経済産業省 資源エネルギー庁)
クリーンエネルギーってどんなもの?再生可能エネルギーの種類とメリット・デメリット
SDGs目標7を達成するカギとなるのが、「クリーンエネルギー」です。特に、その中心的な役割を担うのが「再生可能エネルギー」。なんだか似たような言葉ですが、ここでは主に、自然の力を利用して、二酸化炭素をほとんど出さずに繰り返し使えるエネルギーのことを指します。
では、具体的にどんな種類があるのでしょうか?それぞれの特徴と、メリット・デメリットを比較しながら見ていきましょう。
エネルギーの種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
太陽光発電 | ・設置場所の自由度が高い(屋根など) ・災害時の非常用電源にもなる ・導入コストが下がってきている | ・天候(日射量)に発電量が左右される ・夜間は発電できない ・広い設置面積が必要になる場合がある |
風力発電 | ・夜間でも風が吹けば発電できる ・大規模に開発すれば発電コストが安い ・陸上だけでなく洋上にも設置可能 | ・天候(風速)に発電量が左右される ・景観への影響や騒音の問題がある ・バードストライク(鳥の衝突)の懸念 |
水力発電 | ・長期間、安定的に大量の電気を作れる ・発電量の調整がしやすい ・発電コストが安い | ・大規模なダム建設が必要 ・建設できる場所が限られる ・自然環境への影響が大きい |
地熱発電 | ・天候に左右されず24時間安定して発電可能 ・日本の豊富な火山資源を活かせる ・発電に使った熱水を農業などに再利用できる | ・開発できる場所が限られる(温泉地など) ・開発コストが高く、調査に時間がかかる ・温泉資源への影響が懸念されることがある |
バイオマス発電 | ・廃棄物(木材、食品ロスなど)を燃料として有効活用できる ・燃料を燃やすが、元は植物なのでCO2が増えない(カーボンニュートラル) ・安定した発電が可能 | ・燃料の収集・運搬・管理にコストがかかる ・小規模な発電所が多く、効率が課題 ・燃料の安定確保が必要 |
日本の強みと課題
この表を見ると、どのエネルギーにも一長一短があることがわかりますね。だからこそ、どれか一つに頼るのではなく、それぞれの長所を活かし、短所を補い合う「エネルギーミックス」が重要になります。
例えば、四方を海に囲まれた日本は、洋上風力発電の大きなポテンシャルを秘めています。また、世界有数の火山国であることから、地熱発電も有望な選択肢の一つです。太陽光発電は、一般家庭でも導入が進んでおり、私たちの暮らしに最も身近な再生可能エネルギーと言えるでしょう。
一方で、再生可能エネルギーの多くは天候に左右されるという不安定さがあります。そのため、発電した電気をためておく「蓄電池」の技術開発や、異なる地域の発電所を電線でつなぎ、電気を融通しあう「送電網」の強化も、同時に進めていく必要があります。
「クリーン」なだけではなく、「安定的」で「経済的」なエネルギーをどう実現していくか。日本は今、未来のエネルギー社会に向けた大きな挑戦の真っ只中にいるのです。
エネルギー問題を解決するために、世界や日本ではどんな取り組みが進んでいるの?
SDGs目標7の達成は、決して夢物語ではありません。世界中で、そしてこの日本でも、目標達成に向けた様々な取り組みが力強く進められています。ここでは、具体的な事例をいくつかご紹介しましょう。
世界で広がる協力の輪
エネルギー問題は、一国だけでは解決できないグローバルな課題です。そのため、国境を越えた協力が活発に行われています。
例えば、アフリカの電気が通っていない「無電化地域」では、国際機関や各国の支援によって、小規模な太陽光発電設備や、太陽光で充電できる「ソーラーランタン」の普及が進められています。これにより、子どもたちが夜に勉強できるようになったり、お店が夜間も営業できるようになったりと、人々の暮らしに具体的な変化が生まれています。高価で環境負荷の大きい灯油ランプから、安全でクリーンな明かりへとシフトしているのです。
また、先進国の技術や資金を活用して、開発途上国に再生可能エネルギー発電所を建設するプロジェクトも世界中で行われています。これは、開発途上国のエネルギーアクセスを改善すると同時に、世界全体の二酸化炭素排出量を削減することにも繋がる、「一石二鳥」の取り組みと言えます。このように、得意な分野で助け合い、世界全体で課題解決を目指す動きが広がっています。
日本政府と企業の挑戦
日本国内でも、官民一体となった取り組みが加速しています。
政府は「第6次エネルギー基本計画」の中で、2030年度の電源構成において、再生可能エネルギーの比率を36~38%に引き上げるという高い目標を掲げました。これは2019年度の実績(18%)から倍増させるという、非常に意欲的な目標です。この達成に向けて、再生可能エネルギーを導入しやすくするための制度(FIP制度など)の見直しや、次世代の送電網の整備などが進められています。
企業もこの動きに呼応しています。事業で使う電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアチブ「RE100」に加盟する日本企業は年々増加しており、自社の工場やオフィスに太陽光パネルを設置したり、再生可能エネルギー由来の電力プランを契約したりする動きが活発です。
さらに、新しい技術開発も欠かせません。より効率的で安価な太陽電池や、風車の大型化、海に浮かべる「浮体式」の洋上風力発電など、日本の高い技術力を活かした研究開発が、未来のエネルギー社会を切り拓こうとしています。これらの取り組みは、私たちの生活を支えるだけでなく、新たな産業や雇用を生み出す可能性も秘めているのです。
私たちにもできること|日常生活で取り組めるアクションリスト
「世界の大きな話や、政府・企業の話はわかったけど、結局自分にできることって節電くらいでしょ?」
そう思われた方もいるかもしれません。もちろん、こまめに電気を消すといった地道な節電も、とても大切です。でも実は、私たちの毎日の暮らしの中には、もっとたくさんのアクションが隠されています。
ここでは、今日から始められる具体的なアクションをリストアップしてみました。無理せず、楽しみながら取り組めそうなものから、ぜひ試してみてください。
自宅でできる省エネアクション
- 家電の買い替えで賢く省エネもし家電の買い替えを検討しているなら、省エエネ性能を示す「統一省エネラベル」をチェックしてみましょう。星の数が多いほど省エネ性能が高く、年間の電気代の目安も分かります。特に冷蔵庫やエアコン、テレビといった長時間使う家電は、最新の省エネモデルに変えるだけで、電気代もCO2排出量も大きく削減できる場合があります。
- 照明をLEDにチェンジ家庭の照明を、白熱電球や蛍光灯からLED照明に交換するのも効果的です。LEDは消費電力が少ないだけでなく、寿命がとても長いので、交換の手間も省けて経済的。一つ変えるだけでも、着実な省エネに繋がります。
- 待機電力をカットする習慣を家電製品は、使っていない時でもコンセントに繋がっているだけで「待機電力」を消費しています。テレビやパソコンなど、長時間使わないものは主電源からオフにする、スイッチ付きの電源タップを活用して、こまめにオフにする習慣をつけましょう。
電力会社のプランを見直してみる
- 再生可能エネルギー由来の電力プランを選ぶ 最近では、多くの電力会社が、太陽光や風力といった再生可能エネルギーで発電された電力を中心に供給する料金プランを提供しています。電力会社のウェブサイトなどで、自宅の電気をクリーンなエネルギーに切り替えることができないか、一度調べてみてはいかがでしょうか。電気の「産地」を選ぶという、新しいアクションです。
暮らしの中のちょっとした工夫
- エネルギーの「見える化」を楽しむスマートメーターが設置されている家庭なら、電力会社が提供するウェブサービスなどで、時間帯ごとの電力使用量をチェックできます。「この時間は電気を使いすぎているな」「この家電が意外と電気を食うんだな」といった発見が、ゲーム感覚で省エネのモチベーションを高めてくれるかもしれません。
- 移動手段を工夫する近所への買い物は、車ではなく徒歩や自転車で。通勤で一駅手前で降りて歩いてみる。こうした小さな工夫も、ガソリンという化石燃料の消費を減らす立派なアクションです。公共交通機関の利用も、一人ひとりが車を運転するより、全体のエネルギー消費を抑えることに繋がります。
一つひとつの行動は小さくても、多くの人が実践すれば、社会全体を動かす大きな力になります。「自分一人がやっても変わらない」ではなく、「自分から始めてみよう」という気持ちが、クリーンな未来への第一歩です。
まとめ:未来のエネルギーのために、今日から始められる一歩
今回は、SDGs目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」について、その基本から世界の現状、そして私たちにできることまで、じっくりと掘り下げてきました。
この記事でお伝えしたかった大切なポイントを、最後にもう一度振り返ってみましょう。
- SDGs目標7は、「誰もがエネルギーを使える社会」と「地球にやさしいクリーンなエネルギー社会」を同時に目指す目標であること。
- 世界には今も電気のない生活を送る人が約6.8億人もいる一方で、日本はエネルギーのほとんどを海外からの輸入に頼っているという課題があること。
- 解決のカギは太陽光や風力などの「再生可能エネルギー」であり、世界中でその導入に向けた努力が進められていること。
- 省エネ家電への買い替えや電力プランの見直しなど、私たちの日常生活の中にも、未来を変えるためのアクションがたくさんあること。
エネルギー問題は、どこか遠い国の話でも、政府や専門家だけが考える難しい話でもありません。私たちが毎日使う電気やガスの向こう側にある、世界の人々の暮らしや、地球の未来に直結した、とても身近なテーマなのです。
今日、この記事を読んでくださったあなたが、部屋の照明をLEDに変えてみたり、使っていない家電のコンセントを抜いてみたり、次の休みに電力会社のプランを調べてみたり…。そんな小さな一歩を踏み出すことが、持続可能でクリーンなエネルギー社会を実現するための、何より力強い原動力となります。
未来の世代も安心してエネルギーを使える社会を、そして美しい地球環境を。そのバトンを繋いでいくために、今日からあなたにできることを、始めてみませんか。
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