「ずっとこの街で、安心して暮らしたい」
多くの人がそう願うのではないでしょうか。SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」は、まさにその願いを世界共通の目標にしたものです。
でも、「まちづくり」と聞くと、なんだか行政や専門家がやることで、自分には関係ないと感じるかもしれません。しかし、この目標は私たちの毎日の暮らしに深く関わっています。
この記事を読めば、SDGs目標11が目指す未来の姿や、私たちが直面している課題、そしてより良い街のために一人ひとりができることのヒントが見つかります。少しだけ、私たちの街の未来について一緒に考えてみませんか。
SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」の基本
SDGs目標11は、正式には「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」と定められています。少し難しい言葉が並んでいますが、分解してみると、私たちが理想とする街の姿が見えてきます。
を一言でいうと、「世界中の誰もが、安全で快適な家に住み、災害や環境問題にも強く、将来にわたって豊かに暮らし続けられる街をつくろう」という目標です。
なぜ今、「まちづくり」が世界的な目標になっているのでしょうか。その背景には、急速な「都市化」があります。国連の報告によると、現在、世界人口の半数以上が都市で暮らしており、2050年にはその割合が3分の2に達すると予測されているのです。人が都市に集中すると、住宅不足や交通渋滞、ごみ問題、災害時のリスク増加など、さまざまな課題が深刻になります。
こうした課題を解決し、未来の世代も安心して暮らせる街をつくるために、SDGs目標11は具体的な10個のターゲット(達成基準)を掲げています。
目標11が目指す「持続可能な都市」の4つのキーワード
目標11を理解する上で大切なのが、「包摂的」「安全」「強靭(レジリエント)」「持続可能」という4つのキーワードです。これらは、私たちが目指すまちの理想像を示しています。
- 包摂的(ほうせつてき)なまちこれは「誰一人取り残さない」まちのことです。年齢や性別、障害の有無、経済状況などに関わらず、すべての人が必要なサービスを受けられ、まちづくりに参加できる状態を指します。例えば、ベビーカーや車いすでも移動しやすいバリアフリーの歩道や、多様な人々が集える公園などが挙げられます。
- 安全なまち犯罪や事故が少なく、誰もが安心して暮らせるまちです。また、きれいな水や電気が安定して供給され、衛生的な環境が保たれていることも含まれます。スラム街のように、基本的なインフラが整っていない住環境の改善も大きな課題です。
- 強靭(レジリエント)なまち「強靭(レジリエント)」とは、しなやかな強さや回復力を意味します。地震や台風、洪水といった自然災害が発生したときに、被害を最小限に抑え、たとえ被害を受けても迅速に復旧できる、しなやかで強いまちを目指します。
- 持続可能なまち環境への負担が少なく、未来の世代も豊かに暮らせるまちのことです。ごみの削減やリサイクル、公共交通機関の利用促進によるCO2排出量の削減、歴史的な建物や豊かな自然を守り、未来へ引き継いでいく取り組みなどが含まれます。
目標11の具体的なターゲットを見てみよう
目標11には、より具体的な10個のターゲットがあります。すべてを覚える必要はありませんが、どのようなことが目標とされているかを知ると、より理解が深まります。ここでは、私たちの生活に関わりの深いものを中心にいくつか紹介します。
カテゴリ | 具体的なターゲット(一部抜粋・要約) |
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安全な暮らしとインフラ | ・すべての人が安全で安価な住宅に住めるようにする(11.1)・誰もが利用しやすい公共交通機関を整備する(11.2)・すべての人が安全に利用できる緑地や公共スペースを確保する(11.7) |
災害への強さと環境 | ・自然災害による死者や経済的損失を大幅に減らす(11.5)・都市の環境への悪影響(大気汚染や廃棄物管理など)を減らす(11.6) |
文化と計画 | ・世界の文化遺産や自然遺産を保護する(11.4)・国や地域が連携して、持続可能な開発計画を進める(11.a) |
これらのターゲットは、どれか一つを達成すれば良いというわけではありません。例えば、公共交通機関を整備すること(11.2)は、大気汚染の削減(11.6)につながります。また、安全な公共スペースの確保(11.7)は、災害時の避難場所としても機能し、まちの強靭性(11.5)を高めます。このように、それぞれの目標が相互に関わり合いながら、「住み続けられるまちづくり」を実現していくのです。
なぜ今「住み続けられるまちづくり」が重要?世界の現状
「住み続けられるまちづくり」がこれほどまでに重視されるのは、世界中の都市がさまざまな課題に直面しているからです。特に、急速な都市化は多くの問題を生み出しています。
途上国では、仕事を求めて多くの人々が都市に流入しますが、その受け皿が追いついていません。その結果、安全な水や電気、衛生施設などの基本的なサービスが整っていない「スラム」と呼ばれる地域が拡大しています。国連人間居住計画(UN-Habitat)によると、今も世界で10億人以上の人々がスラムでの生活を余儀なくされているのです。
また、人が集まる都市は、大量のエネルギーを消費し、多くのごみや汚染物質を排出します。世界のエネルギーの約8割は都市で消費され、温室効果ガス排出量の多くを占めていると言われています。大気汚染は人々の健康を脅かし、廃棄物処理の問題も深刻化しています。これは途上国だけの問題ではありません。私たち先進国も、豊かさの裏で多くの環境負荷を生み出しているのです。
さらに、気候変動の影響で、世界中で異常気象による自然災害が頻発・激甚化しています。都市部は人口や資産が集中しているため、一度災害が起きると被害が甚大になりがちです。だからこそ、災害の被害を最小限に食い止め、速やかに復旧できる「強靭(レジリエント)なまち」をつくることが急務となっています。
日本における「住み続けられるまちづくり」の現状と課題
世界とは少し違った角度から、日本国内の「まちづくり」にも多くの課題があります。私たちの暮らしに深く関わる3つのテーマを見ていきましょう。
人口減少と高齢化:「コンパクトシティ」という考え方
日本のまちづくりにおける最大の課題は、世界でも類を見ないスピードで進む「人口減少」と「高齢化」です。人が減っていくと、特に地方都市では、これまで維持してきた道路や水道、公共施設などのインフラ管理が難しくなります。また、スーパーや病院が撤退し、バス路線が廃止されるなど、生活の利便性が低下してしまう恐れもあります。
そこで注目されているのが「コンパクトシティ」という考え方です。これは、人々の居住エリアや商業施設、病院、行政サービスなどを特定のエリアに集約させることで、持続可能なまちを目指す取り組みです。
例えば、富山市では、公共交通機関である路面電車(LRT)を軸にまちづくりを進め、沿線に居住エリアを誘導することで、高齢者でも車に頼らず快適に暮らせる街を実現しようとしています。コンパクトシティには、行政サービスの効率化や、住民同士の交流促進、中心市街地のにぎわい創出といったメリットが期待されています。
防災・減災とインフラ老朽化対策
地震や台風、豪雨など、多くの自然災害に見舞われる日本にとって、「防災・減災」はまちづくりの根幹をなす重要なテーマです。災害に強いまちをつくるためには、堤防や避難施設の整備といったハード面の対策と、ハザードマップの周知や防災訓練といったソフト面の対策の両方が欠かせません。
同時に、インフラの「老朽化」も深刻な問題です。高度経済成長期に集中的に整備された道路、橋、トンネル、水道管などが、一斉に寿命を迎えつつあります。これらのインフラを計画的に点検・修繕・更新していかなければ、ある日突然、大きな事故につながる危険性があります。限られた予算の中で、膨大な数のインフラをどう維持管理していくかは、日本のすべての自治体が抱える大きな課題です.
空き家問題と地域のつながりの希薄化
人口減少に伴い、全国で「空き家」が増え続けています。総務省の調査では、2023年時点で日本の空き家は約900万戸にものぼり、過去最多を更新しました。適切に管理されていない空き家は、景観を損なうだけでなく、倒壊の危険や、不法投棄、放火といった防犯上のリスクも生み出します。空き家を地域の資源と捉え、移住者向けの住居やコミュニティスペースとして再生する取り組みも各地で始まっています。
また、都市部を中心に、地域のつながりが薄れていることも課題です。隣に誰が住んでいるか分からない、自治会活動への参加率が低いといった状況は、いざという災害時に助け合う「共助」の力を弱めてしまいます。地域のイベントやお祭り、清掃活動などは、こうしたつながりを育む大切な機会。安心して暮らし続けるためには、住民同士の顔が見える関係づくりも、立派な「まちづくり」の一つなのです。
私たちにできること:まちづくりへの第一歩
「まちづくり」は行政だけの仕事ではありません。そこに住む私たち一人ひとりが、自分の街に関心を持ち、小さな行動を起こすことで、まちはもっと良く変わっていきます。今日から始められる3つのアクションを紹介します。
地域の活動に参加してみよう
まずは、あなたの街でどんな活動が行われているかを知ることから始めてみませんか。自治体や自治会の広報誌、ウェブサイト、地域の掲示板などには、イベントやボランティア募集の情報が載っているはずです。
地域の清掃活動や防災訓練、お祭りなど、気軽に参加できるものもたくさんあります。こうした活動は、街をきれいにする、防災力を高めるといった目的だけでなく、近所の人と顔見知りになる絶好の機会です。人とのつながりは、日々の安心感や、災害時の助け合いにつながる大切な財産になります。「自分たちの街は自分たちで良くしていく」という意識を持つことが、大きな一歩です。
地元のお店を応援する「地産地消」
あなたの家の近くにある商店街や個人商店で買い物をすることも、立派なまちづくりへの貢献です。地元のお店が元気でいることは、街のにぎわいや活気を生み出し、地域の経済を潤します。スーパーマーケットへ行った際に、地元で採れた野菜や加工品を意識して選んでみるのも良いでしょう。
これは「地産地消(地域で生産されたものを地域で消費する)」という考え方にもつながります。新鮮で美味しいだけでなく、輸送にかかるエネルギーやCO2を削減できるため、環境にもやさしい選択です。私たちの日々の買い物が、地域経済と環境を守り、街の持続可能性を高める力を持っているのです。
防災意識を高め、自分と地域を守る
日本に住む以上、災害への備えは不可欠です。まずは、自治体が発行している「ハザードマップ」を確認し、自分の家や職場、よく利用する場所にどのような危険があるかを知っておきましょう。
その上で、非常持ち出し袋の準備や、家具の固定、家族との安否確認方法の話し合いなど、具体的な備えを進めることが大切です。こうした個人の「自助」の取り組みが、災害時の被害を減らす基本となります。そして、自分の安全が確保できたら、近所の人を助ける「共助」にもつながっていきます。防災訓練に積極的に参加し、地域全体の防災力を高めていくことも、安心して住み続けられるまちづくりには欠かせません。
SDGs目標12「つくる責任、つかう責任」とは?基本をわかりやすく解説
まとめ:未来の街は、私たちの手でつくれる
SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」は、地球上の誰もが安全で快適に暮らし続けられる街を目指す、壮大で、しかし非常に身近な目標です。
世界の都市が抱える課題から、日本の人口減少や防災といった特有の問題まで、その内容は多岐にわたります。しかし、その根底にあるのは、「自分たちの街を、もっと良くしたい」というシンプルな想いです。
この記事で紹介したように、地域の活動への参加や、地元での買い物、防災への備えなど、私たち一人ひとりにできることはたくさんあります。特別なことである必要はありません。自分の街に関心を持ち、小さな行動を一つ起こしてみる。その積み重ねが、誰一人取り残さない、強靭で持続可能な「住み続けられるまち」を創り上げていくのです。
あなたの小さな一歩が、あなたと、あなたの愛する人たちが暮らす街の、明るい未来につながっています。
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