「お腹すいたな…」と感じたとき、私たちはコンビニでおにぎりを買ったり、レストランで食事をしたり、家に帰って温かいご飯を食べたりできます。しかし、その「当たり前」が、世界では決して当たり前ではないという事実を、あなたは知っていますか?
世界には、今日食べるものに困り、深刻な栄養不足に苦しむ人々がたくさんいます。この深刻な問題の解決を目指すのが、SDGs(持続可能な開発目標)の目標2「飢餓をゼロに」です。
「なんだか壮大で、自分とは関係ない話かも…」
そう感じる方もいるかもしれませんね。でも実は、この問題は私たちの食生活や日本の社会とも深く繋がっているのです。この記事を読めば、SDGs目標2の基本から、世界と日本の現状、そして私たち一人ひとりが今日からできることまで、まるっと理解できます。
少しだけ、世界と私たちの食の未来に、想いを馳せてみませんか。きっと、新しい発見があるはずです。
SDGs目標2「飢餓をゼロに」とは?基本を分かりやすく解説
まずは基本から押さえていきましょう。SDGs目標2「飢餓をゼロに」とは、一体どのような目標なのでしょうか。
正式には「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を達成し、持続可能な農業を促進する」という、少し長い名前がついています。これを分解してみると、3つの大きなテーマが見えてきます。
- 飢餓を終わらせる:文字通り、誰もがお腹を空かせることがない世界を目指します。これには、紛争や自然災害といった緊急事態で食料が手に入らない人々への支援も含まれるのです。
- 食料安全保障と栄養改善:ただお腹が満たされれば良い、というわけではありません。すべての人が、いつでも安全で栄養のある食料を十分に手に入れられる状態(食料安全保障)を目指します。特に、子どもや女性、お年寄りなど、栄養を必要とする人々が健康に過ごせるよう、栄養状態を改善することも重要な課題です。
- 持続可能な農業の促進:将来にわたって安定的に食料を生産し続けるためには、環境に配慮した農業が必要です。土や水、生物多様性を守りながら、気候変動にも強い農業のやり方を広めていくことを目指しています。
つまり、SDGs目標2は、「世界中の誰もが、将来にわたってずーっと、健康的な食生活を送れるようにしよう!」という、とても大切な約束なのです。
この目標がなぜ重要なのかというと、食は人間の命と健康、そして尊厳の基盤だからです。お腹が空いていては、勉強や仕事に集中できませんし、病気にもかかりやすくなります。子どもたちは健やかに成長できず、国の発展も遅れてしまうでしょう。すべての人がその人らしく生きていくための、まさに「土台」となるのが、この目標2なのです。
世界と日本の飢餓の現状は?最新データで見る深刻な食料問題
「飢餓」と聞くと、遠いアフリカの国のことのように感じるかもしれません。しかし、その現状は私たちが思うよりもずっと深刻で、実は日本も無関係ではありません。最新のデータを見ながら、世界と日本の食料問題について考えてみましょう。
世界では9人に1人が飢えているという現実
国連の報告書「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)2023」によると、2022年時点で世界で最大7億8,300万人の人々が飢餓に苦しんでいます。これは、世界人口の約9.2%にあたり、およそ9人に1人が満足に食事をとれていない計算になるのです。
この数字は、新型コロナウイルスのパンデミックや世界各地で続く紛争、そして異常気象などの影響で、近年増加傾向にありました。少しずつ改善の兆しが見える地域もあるものの、依然として深刻な状況が続いています。
飢餓の主な原因は、一つではありません。
- 紛争・内戦:戦闘によって農地が破壊されたり、食料の輸送が妨げられたりします。
- 気候変動:干ばつや洪水といった異常気象が、農作物の不作を引き起こします。
- 経済の停滞:景気の悪化は人々の収入を減らし、食料を買うお金を奪います。
- 食料価格の高騰:世界的な需要の増加や不作により、食料の値段が上がり、貧しい人々が買えなくなります。
これらの要因が複雑に絡み合い、多くの人々の食を脅かしているのが現状です。
日本は本当に飢餓と無関係?「相対的貧困」と「食品ロス」
一方、豊かな国だと思われている日本。確かに、絶対的な飢餓に苦しむ人はほとんどいません。しかし、日本にも食の問題は存在します。
一つは「相対的貧困」です。これは、その国の所得の中央値の半分に満たない収入で暮らしている状態を指し、2021年の調査では子どもの貧困率が11.5%、つまり9人に1人の子どもがこの状態にあるとされています。こうした家庭では、食費を切り詰めるために栄養バランスの取れた食事ができなかったり、給食のない夏休みに痩せてしまったりする子どもたちがいるのです。これは「見えにくい飢餓」と言えるかもしれません。
そしてもう一つが、世界とは対照的な「食品ロス(フードロス)」の問題。日本では、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品が、2021年度で年間523万トンも発生しています。これは、国民一人ひとりが毎日お茶碗1杯分のご飯を捨てているのと同じくらいの量です。この量は、WFP(国連世界食糧計画)が世界中で行っている食料支援量の約1.2倍にも相当します。
世界では食べ物が足りずに苦しむ人がいる一方で、日本では大量の食べ物が捨てられている。この大きな矛盾は、私たち一人ひとりが真剣に向き合うべき課題ではないでしょうか。
参考1:2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)
参考2:我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和3年度)の公表について(農林水産省)
目標2達成の鍵を握る「ターゲット」を徹底解剖!
SDGsの各目標には、より具体的な行動計画として「ターゲット」が設定されています。目標2「飢餓をゼロに」には、全部で8つのターゲットがあり、これらを達成することで、最終的なゴールを目指す仕組みになっています。
ここでは、その8つのターゲットを、大きく「何をすべきか(what)」と「どうやって進めるか(how)」の2つのグループに分けて、分かりやすく解説していきましょう。なんだか難しそうに聞こえるかもしれませんが、一つひとつ見ていけば、目標達成までの道のりが具体的にイメージできるはずです。
何をすべきか?具体的な5つの目標(2.1〜2.5)
こちらのグループは、2030年までに達成すべき具体的な成果を示しています。
2.1:すべての人が安全で栄養ある食料を
2030年までに、飢餓をなくし、特に貧しい人々や、乳幼児といった弱い立場にいる人々が、一年中、安全で栄養のある食料を十分に手に入れられるようにすることを目指します。これが、目標2の最も中心的なターゲットといえるでしょう。
2.2:あらゆる形の栄養不良をなくす
飢餓だけでなく、栄養不良もなくそう、というターゲットです。2025年までの国際的な目標として、子どもの発育阻害や消耗症(身長に対して体重が少なすぎること)をなくし、妊婦さんや授乳中のお母さん、高齢者の栄養ニーズにも対応することを目指します。ただ食べるだけでなく、「質の良い食事」が重要だという視点です。
2.3:小規模農家の生産性と収入を倍増させる
世界の食料の多くは、実は家族経営などの小規模な農家によって生産されています。そこで、こうした農家の人々(特に女性や先住民、漁師など)が、土地や資源、知識、金融サービス、市場へアクセスしやすくなるように支援し、2030年までに彼らの生産性と収入を倍にすることを目指します。
2.4:持続可能な食料生産システムの確保
2030年までに、環境に優しく、災害にも強い、持続可能な食料生産の仕組みを確立します。生産性を維持しながら、生態系を守り、気候変動や干ばつ、洪水などにも適応できるような、たくましい農業を推進することが目標です。
2.5:食料生産のための遺伝資源の多様性を守る
おいしくて栄養のある作物を育て続けるためには、さまざまな種類の種子や家畜の遺伝的な情報(遺伝資源)が欠かせません。この多様性を守るために、国や国際的なレベルで種子バンクなどを適切に管理し、利用できるようにすることを目指しています。
どうやって進めるか?実施手段に関する3つの目標(2.a〜2.c)
こちらのグループは、先の5つの目標をどうやって実現していくか、その方法を示しています。
2.a:農業への投資を増やす
開発途上国、特に最も開発が遅れている国々の農業を発展させるため、国際協力などを通じて、農村のインフラや研究、技術開発への投資を増やすことを目指します。
2.b:農産物貿易のルールをただす
世界市場で、一部の国だけが有利になるような不公平な貿易ルール(輸出補助金など)をなくし、すべての国が公正に貿易できるようにすることを目指します。
2.c:食料価格の極端な変動を抑える
人々が安心して食料を買えるように、食料市場やその関連情報へ適切にアクセスできるようにします。これにより、食料価格が異常に高騰したり、乱高下したりすることを防ぐことを目指します。
このように、具体的な目標とそれを達成するための手段がセットになっているのが、SDGs目標2の特徴です。
「飢餓をゼロに」するために企業はどんな取り組みをしている?事例を紹介
SDGs目標2の達成は、国やNPO/NGOだけの力では成し遂げられません。実は、私たちの生活に身近な多くの企業も、その技術やビジネスの仕組みを活かして、飢餓問題の解決に貢献しています。ここでは、国内外の企業の具体的な取り組み事例をいくつか見ていきましょう。
食品ロス削減への挑戦:コンビニエンスストアや食品メーカー
日本で年間523万トンも発生する食品ロス。この大きな課題に、食品を扱う企業が立ち向かっています。
例えば、株式会社セブン‐イレブン・ジャパンでは、販売期限が近づいたおにぎりや弁当などを購入するとポイントが付与される「エシカルプロジェクト」を実施しています。これは、消費者に「てまえどり」を促し、廃棄を減らすための賢い仕組みです。また、AIを活用した発注システムを導入し、天候やイベント情報から需要を予測することで、そもそも無駄な仕入れを減らす努力も行っています。
食品メーカーの味の素グループでは、製造工程でどうしても出てしまう野菜の芯や皮といった未利用資源を、うま味調味料や飼料、肥料などに有効活用する取り組みを進めています。さらに、アミノ酸の研究で培った知見を活かし、ガーナの子どもたちの栄養改善プロジェクトを支援するなど、国内外で活躍しています。
持続可能な農業を支援:農業機械メーカーや食品会社
食料を安定的に生産し続けるためには、環境に配慮した持続可能な農業が不可欠です。
農業機械メーカーのヤンマーホールディングス株式会社は、「スマート農業」の技術開発に力を入れています。GPSやドローン、センサーなどを活用し、農薬や肥料を必要な場所にだけピンポイントで散布できるようにすることで、環境負荷を減らしながら収穫量を増やすことを可能にしています。これは、農家の高齢化や人手不足といった日本の課題解決にも繋がる取り組みです。
また、カゴメ株式会社は、トマトの契約栽培において、農家に対して土壌診断に基づいた適切な施肥指導を行っています。これにより、化学肥料の使用量を減らし、環境を守りながら高品質なトマトを安定して生産することを目指しています。同社は、こうした持続可能な農業のノウハウを、アフリカのセネガルなど海外にも展開し、現地の農業発展に貢献しています。
これらの事例はほんの一部です。他にも、フェアトレード製品を扱う企業、食料支援を行うNPOと連携する企業など、さまざまな形で目標2の達成に貢献する動きが広がっています。私たちが普段利用するお店や製品が、実は世界の食料問題の解決に繋がっているのかもしれませんね。
私たちにできることは?今日から始められるアクションプラン
「世界規模の飢餓問題なんて、自分一人が何かしても変わらないのでは…」と感じるかもしれません。でも、そんなことはありません。私たちの毎日の小さな選択や行動が、大きな変化を生み出す第一歩になります。ここでは、今日からでも始められるアクションを「知る・選ぶ」「減らす」「支える」の3つのステップに分けてご紹介します。
Step1:まずは「知る・選ぶ」ことから始めよう
問題解決の第一歩は、現状を正しく知ることから始まります。
- 飢餓や食品ロスの現状を学ぶ:この記事を読んでくださっているように、まずは関心を持つことが大切です。国連や政府、NPOなどが発信する情報をチェックしてみましょう。
- SNSでシェアする:学んだことや感じたことを、SNSで友人や家族にシェアしてみませんか。「#食品ロス削減」「#SDGs2」といったハッシュタグをつけて発信するのも良い方法です。あなたの投稿が、誰かの意識を変えるきっかけになるかもしれません。
- 地球にやさしい食材を選ぶ:買い物の際に、少しだけ商品の背景を意識してみましょう。例えば、地元の農家さんが作った野菜(地産地消)は、輸送にかかるエネルギーが少なくて済みます。また、生産者の生活や環境に配慮した「フェアトレード」や「レインフォレスト・アライアンス」といった認証マークのついた商品を選ぶことも、持続可能な農業を応援する立派なアクションです。
Step2:毎日の生活で「減らす」を意識する
日本で深刻な食品ロス。これを減らすことは、私たちにとって最も身近で効果的な取り組みの一つです。
- 買い物の前に冷蔵庫をチェック:買い物に行く前に、家にある食材を確認する習慣をつけましょう。買いすぎや二重買いを防ぐことができます。
- 「てまえどり」を実践する:スーパーやコンビニでは、賞味期限や消費期限が近い商品から積極的に選んでみましょう。すぐに食べるものなら、棚の奥から取る必要はありません。
- 食材を使い切る工夫をする:野菜の皮や芯も、調理法を工夫すれば美味しく食べられます。レシピサイトで「野菜の皮 レシピ」などと検索すると、たくさんのアイデアが見つかりますよ。食べきれなかった料理は、冷凍保存やリメイクで上手に活用しましょう。
Step3:行動で「支える」
もう少し積極的に関わりたい、という方は、支援の輪に加わることもできます。
- フードバンクやフードドライブに寄付する:家庭で余っている未開封の食品を、食料を必要としている人々に届ける「フードバンク」という活動があります。お近くのフードバンク団体を調べて、食品を寄付したり、ボランティアとして活動に参加したりするのも素晴らしい支援です。
- 信頼できる団体に寄付する:国連WFPや、飢餓問題に取り組む国内外のNPO/NGOに寄付をすることも、大きな力になります。少額からでも寄付できるプログラムがたくさんありますので、自分に合った方法を探してみましょう。
アクション | 手軽さ | インパクト | 具体的な行動例 |
---|---|---|---|
知る・選ぶ | ★★★ | ★☆☆ | SNSで情報をシェアする、フェアトレード商品を買う |
減らす | ★★☆ | ★★☆ | 買い物前に冷蔵庫をチェックする、「てまえどり」を実践する |
支える | ★☆☆ | ★★★ | フードバンクに食品を寄付する、NPO/NGOに募金する |
一つひとりは小さなことでも、多くの人が実践すれば、必ず大きな力となって世界の食料問題の解決に繋がっていきます。あなたも、できることから始めてみませんか。
まとめ:あなたの一食が、世界の未来を変えるかもしれない
今回は、SDGs目標2「飢餓をゼロに」について、世界の現状から私たちができることまで、詳しく掘り下げてきました。
世界には、今この瞬間も約9人に1人が飢えに苦しんでいるという厳しい現実があります。その原因は紛争や気候変動、経済の問題などが複雑に絡み合っています。一方で、私たち日本の社会は、年間523万トンもの食品ロスを生み出しているという矛盾も抱えています。
この壮大な課題に対して、SDGs目標2は、ただ食料を配るだけでなく、「栄養状態の改善」や「持続可能な農業」といった多角的なアプローチで、問題の根本的な解決を目指していることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
そして、この記事を通して一番お伝えしたかったのは、この問題が決して他人事ではない、ということです。
あなたがスーパーで「てまえどり」をすること。冷蔵庫の食材を上手に使い切ること。フェアトレードのコーヒーを選ぶこと。その一つひとつの小さな選択が、食品ロスを減らし、持続可能な農業を支え、遠い国の誰かの笑顔に繋がっている可能性があります。
私たちの「食べる」という行為は、自分の命を繋ぐだけでなく、社会や世界と繋がるための大切な接点なのです。
この記事を読んで、少しでも「何か始めてみようかな」と感じていただけたなら、これほど嬉しいことはありません。まずは、今日の夕食の食材を大切に味わうことから。あなたの一食が、世界の未来を変える、はじめの一歩になることを信じて。
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